久方菜乃花関連,  テキスト

世界線越しのラブソング3

DX3rd、main様(@main_1069)GMのセッション、
「君の傍にいたいから」に参加させていただきました。

素敵なリプレイはこちらから→「【DX3rd】君の傍にいたいから①

自PCの菜乃花と、同じ卓でご一緒した
なりへいさん(@nariheiheTRPG)のPC、龍巳クリフくんをお借りしています。
許可いただきありがとうございます!

数年越しに追加される全カットしたラストシーン。
1話→世界線越しのラブソング1

  

――綺麗な光景だ、と思った。見ているだけで涙が出そうなほど、美しいと思った。
 
 多分それは、夢だったのだと思う。
 ふと、眠りから意識が引き上げられるような感覚がした。目を開けると、そこには真っ白な壁や床。揺れるカーテン。ベッドに横たわる「わたし」。そしてそれを見下ろしている『誰か』。
 忘れるわけがない、それは見慣れた病室での風景だ。
 病室の窓から見える空は低く小さく、窓枠で区切られて狭い。ただ、そこからそよそよと入ってくる風は心地よくて好きだ。夕暮れの一瞬、白が黄金色に染まる
奇跡のような時間も、まるで天国にいるみたいで好きだった。
 ……見慣れた光景の中、ただ一つ違うのは。揺れるカーテンを背に、ベッドに横たわる「わたし」を見ている人だ。先輩は、さすがにもう帰ってしまったのだろう。悲しいとは思わなかった。「らしいなあ」と、ただそれだけ思った。
 代わりにそこに立っていた人は、見覚えのない人だった。年齢は高校生くらいで、特徴的な髪の色を見るに、外国の人か、ハーフの人かもしれない。
 「お前は……」
 その人はわたしを見て、酷く驚いているように見える。
 おかしいなあ、と思った。驚くのはたぶん、知らない人にお見舞いに来られたわたしのほうだと思うんだけど。
 「……こんにちは、お兄さん」
 高校生なら、中学生の私よりお兄さんだ。名前がわからないから、こう呼んでおこう。
 すると、お兄さんはなぜかひどく悲しそうな顔になって、小さくわたしの名前を呼んだ。自己紹介はしていないのに、どうしてわたしの名前を知っているんだろう。そう思ったけど、尋ねる気はなぜか起きなかった。
 この人がわたしの名前を知っていることは、なぜか、当然のことのように思う。
 「ねえ、お兄さん……あの──」
 わたしが思わずお兄さんのほうに手を伸ばす。あと少ししか時間の残っていないわたしの身体はひどく重くて、のろのろしている。
 お兄さんは、迷わずにわたしの手を取ってくれた。少し驚いたけれど、嬉しかった。
 「なんだ」
 そしてそう聞いてくれる。だから、思わず微笑んだ。
 この人は誠実な、優しくて温かい人だ。……人の痛みのわかる人だ。温かい掌を通して、じんわりと心まで温かくなる気がした。
 そして唐突に、この人に言わなければならないことを、わたしは思い出す。
 そよそよと心地よい風が窓から吹き込み、カーテンが翻る。
 「ねえ、お兄さん……わたしね……幸せだったよ」
 凄く凄く幸せで、満たされて生きてきた。お父さんとお母さんの子供で、この身体で、この名前で生まれてこれてよかった。
 両親に伝えたことと同じことを、この人にも伝えなくてはいけないと、そう思った。
 「だから……あなたも幸せになってね。わたしとおなじくらい」
 そういってから、ちょっと考えて、こう言い直した。
 「ううん……わたしより時間がいっぱいあるんだから、わたしより、だね……」
 そういうと、お兄さんは私の手をぎゅうっと強く握りなおす。不思議と痛くはなかった。
 「……そうだな」
 お兄さんは何かをこらえている声で、そう返してくれる。私は頷いた。
 お兄さんに、泣かないでほしいな、と思った。やっぱりわたしは、大事な人を悲しませることばかり上手らしい。この身体への文句は色々あるけれど、一番はそこだ。
 「わたしが生きたかった未来を、見てきて。本当の高校生になって、いっぱい楽しいことして、それで、素敵な人に出会って……今度は……好きになってもらえたらいいなあ」
 ちょっと欲張りすぎたかもしれない。でも、どうせ伝えるなら、全部乗せておいたほうがいいだろう。わたしはそう思って、また笑った。
 お兄さんも、今度はちょっと不器用に、笑ってくれた気がした。
 ほっとしたら、急に眠気が返ってきた。だからわたしは、最後に一番大事なことを伝える。
 「あなたのこと──あなたの人生ごと、愛してるよ」
 だから、とわたしは、迫ってくる眠気を振り払って唇を動かした。
 「……そう伝えて、お兄さん。わたしは……先に往くから」
 ごめんね、と言おうとして、やめておいた。なんとなく、お兄さんには言いたくなかったからだ。
 「わかった。……いつか必ずそう、伝えておく」
 お兄さんがそういったので、わたしは今度こそ安心して目を閉じた。
  抵抗をやめたわたしを、そっと、眠りが連れていく気配がする。

 奇跡ってあるんだなあ、とわたしは最後に思った。

 世界を超えて、この言葉が届けばいい。あなたのことを愛している、という、この祈りと言葉が届けばいい。

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