UGN模擬大戦01
2019年11月3日に行った、大規模PvPのログを元に書き出したSSです。
執筆許可ありがとうございましたー!
龍巳クリフくんVS勇利八尋さんの一幕。
SPECIAL THANKS
なりへいさん(龍巳クリフ)
マジクさん(勇利八尋)
きりぅさん(夏野夜美)
煌さん(アカザ)
朔芽さん(一条蛍司)
◆龍巳クリフVS勇利八尋
……あの「重戦車」を、いずれどこかで落とさねばならない――
勇利八尋は、そう確信していた。
UGNの交流と研鑽の一環として実施された、この左右軍模擬戦。敵として立ちふさがる左軍には、まさに「戦車」ともいうべき防御力を誇る少年がいた。
身体的な強さでは群を抜くシンドローム、キュマイラ。その中でもさらに「竜鱗」と呼ばれる、非常に堅牢な防御力を持つオーヴァードだ。
先ほどから、こちら……右軍の攻撃は、ことごとくその鱗に弾かれ、ほぼ無効化されている。
「(まともにやって、勝ち目は……たぶんない)」
自分の獲物は「光の銃」。レネゲイドで作り出した射撃用の武器だが、それがあれを貫けるかは正直疑問だ。
そう、物理的には。それならば。
「クリフ君」
八尋は顔を上げ、正面から、その少年……龍巳クリフを見据える。クリフが名前を呼ばれ、ぴくりと眉を動かした。
そしておもむろに腕を上げ、手の中の「それ」を彼に向かってかざして見せる。
「君と菜乃花ちゃんが一緒に遊んでいたのを偶然撮影した写真がここにある」
その瞬間、空気が凍った。ピシリ、という音が聞こえるような気さえした。
先ほどまで冷静そのものだったクリフの表情が凍り付き、八尋の手にある写真を凝視する。
「良い写真に撮れているから、俺を倒したら君にあげよう。……ちなみに取りに来ない場合は、君たちを良い感じに茶化しそうなお嬢さん方に、この写真を流す!」
「おいふざけるな、おい!」
かかった! 八尋は確信してにやりと笑う。
そう、物理的に無理ならば、精神的に! 打ち破るしかない!
「くっそ初対面だろ!なんでそんなもん持ってんだ!」
写真を取り返そうとか、それとも次に来る攻撃に対応しようとか、クリフが床を蹴り、間合いを詰める。
「(絶対俺と一緒に遊んでたというより、あいつが俺で遊んでた系の写真だろ、あれ!)」
八尋はしかし、慌てずに言葉を返した。
「ヒントは陽気なお姉さんだ。良い写真だよね」
「なっ!? あーんーのっ……!」
心当たりが一人しかいない。いったいどこでどう繋がっているのだ、この組織の人間関係というやつは!
明らかに動揺したクリフの一瞬を、八尋が逃すわけがなかった。速さなら、キュマイラにエンジェルハィロゥが負けるわけがない。
手にした写真が光を放ち、そのまま光弾が放たれる。タイミングを逃したクリフはしかし、全力でそれでもその攻撃を防ごうと腕を伸ばした。
凄まじい光と、音と、少しの揺れ。周りで戦っていたほかのメンバーも思わず足を止め、その攻防に注目する。
そして光が晴れたそのとき、立っていたのは二人だった。
「……ここまでやってもダメか」
困ったように笑う八尋と。その彼に肉薄したクリフ。
「ちっ、結構硬さには自信付いてきてたが正攻法で少し破られたな」
しかしその口元にはわずかに、赤い血が流れているのが見える。さすがに無傷とはいかなかったようだ。
「この男、こんなに遊び心のあるやつだったかしら……」
そして八尋の後ろでは、夏野財閥の令嬢が意外そうに眉をひそめ、
「ふふふ、やはりいいな、龍巳クリフ!」
FHの重鎮が、きらりと目を輝かせてクリフに狙いを定めている。
「さて、じゃあ俺はそろそろ降参で。この後仕事があるんだ」
八尋の声に弾かれたように顔を上げたクリフ。その額に、ぱさり、と写真が押しあてられる。
「クリフ君、はいこれ。あげるよ」
「おっ、おう……」
「殴り損ねたね?」
写真を受け取り、見つめるクリフに向かって、八尋は少しからかうようにそう言った。
「いや、寄越してもらえたならそれでいいけど……」
その答えに、八尋は一瞬「きょとん」とクリフを見つめ返した。
理不尽な大人の揺さぶりに、文句の二つや三つ、言われると思ったのだが……なるほど、どうやら物理的にも精神的にも、この少年はなかなか「固い」らしかった。
UGNの将来は安泰だな、と密かに胸を撫でおろす八尋だった。
そして、写真を取り返して見つめるクリフは、その内容を改めて確認し、深い安堵のため息をつく。
「……まじで確保しといてよかった」
その写真には見知った少女が、動物の耳の形をしたカチューシャを、不意打ちでクリフに被せているところがしっかりと映りこんでいた。
~模擬戦会場二階、見学席~
「あー! クリフくん勝った! やったー!」
ガラス越しに身を乗り出して、自分のことのように喜ぶ少女は、久方菜乃花という。
「やっぱり強いなー、クリフくん。よかったね、菜乃花ちゃん」
「うん! やっぱりクリフくんは強くて凄いねー!」
答えたのは一条蛍司。UGNの中でも年若い、新米エージェントに数えられる二人だ。
大規模な模擬戦が行われ、そこにクリフが参加すると聞いて駆け付けたのである。
龍巳クリフとはよく同じチームで任務に当たっていることもあり、友人、と呼んで差し支えない関係だろう。
「ところであの写真、いつの写真?」
「えーとね……この前のお休みに、二人で遊んだときのだと思うよ」
菜乃花は自信満々にそう答えるが、実際は「二人で遊んだ」のではなく「菜乃花が一方的にクリフに絡んだ」ときのものである。
この少女の「一緒に遊んだ」はたいていこういう真実の歪曲が含まれるので、油断ならない。
「えー! 俺も一緒に遊びたかった!」
そしてその言葉をまるっと信じる純真な蛍司が一緒だと、歯止めなんてかかるはずがないのだった。
クリフの苦労、推して知るべしである。
「だって蛍司くん、志希ちゃんとデートだったんだもん」
「それは…………あれ? 4人で遊べばよかったんじゃん?」
「あ、そっか! そうだね!」
もはや色々な方向から突っ込みしか入らない会話だが、悲しいかな、ここにその役目を負う少年は不在である。
「クリフくん、抜けるみたい。こっち来るよ」
「迎えにいこうか」
「うん!」
二人は顔を見合わせて、バタバタと見学席の出口に向かって走り出した。